題名 | レビュー | 星の数 |
マルホランド・ドライブ | 「収束」に向かうというサスペンスの重力に反抗し、あえて「拡散」に向かう事で多層性、複数の解釈の可能性を希求するリンチ。「ロスト・ハイウェイ」は、境界線を消す事で観客を煙に巻いたが、本作は、境界線を呈示することで、人間の心底に潜む二面性を強引に抉り出す。ワッツの「清」から「醜」への変転が、恐ろしいほどにシュールレアリスム。 | ★★★★★★★ |
メメント | 一発勝負、一発勝負。二度目は無いという事を承知で繰り出した奥の手。Esoterica.例えて言うならば、オフサイドがルール違反になる前にオフサイドポジションで点をガンガン稼いだフォワードのような狡猾さ。全ての映画人があれはルール違反ではないかと審判に詰め寄っているのが目に映る。確かにこれはルール違反ギリギリの奥の手だが、何事もルール違反ほど面白く、スリリングで、またある意味において魅力的なものはない。 | ★★★★★★★ |
隣人は静かに笑う | 最後の最後まで目が離せないとは、まさにこの事だろう。新事実をタイミング良く提起し、見る側の緊張感を終始途切れさせない展開力。事実が出切った後は、主人公が追い込まれるというスリラー的展開でその緊張感を引き継ぐ。予定調和なサスペンス・プロットをなぞると見せかけ、土壇場でちゃぶ台を豪快にひっくり返す星一徹的シュールレアリスム。倫理も不謹慎も飛び越え、ただひたすらに騙す事に終始した恐ろしきフィルム。 | ★★★★★★★ |
ビッグ・リボウスキ | 横柄な人間というのは相手にすると嫌悪感を感じるが、第三者として外側から見るとなかなか面白いタイプの人間であるといえる。今作におけるグッドマンがまさにそれだ。自分勝手で傍若無人、相手にするには嫌なタイプだが、その妙な程の自信が傍目には面白い。しかもその自信が綿密な計算から来るのではなく、自身のベトナムでの戦争体験から来るという曖昧さ。そんな危うい理論をまるで真理であるかのように説く姿が面白い。 | ★★★★★★★ |
ワグ・ザ・ドッグ うわさの真相 | 政治と喜劇の境界線を取り払おうとするかのようなセリフの積み重ねと、オーバーに見える演技とが、全体に漲る熱気と狂的な疾走感にエネルギーを与え、非常にパワフルかつダイナミックな映画となっている。ある意味において非常に重いテーマであるにもかかわらず娯楽性に満ち、キャラクターは奇妙であるにもかかわらずリアルだ。政治をおもちゃにしながら政治を訓戒する、痛快で圧倒的な映画。 | ★★★★★★★ |
ヒート | 哀愁をさりげなく着こなすデ・ニーロに、虚勢を豪快に着こなすパ・チーノ。そんな中、デ・ニーロ側のヴァル・キルマーが二人の存在感に追随する。マシンガン片手に陰惨に殺し合いながらも、連中はスタイリッシュなスーツ姿というシュールレアリスム。メロディアスな銃声の旋律に、デ・ニーロの「LOOK AT ME」。 | ★★★★★★★ |
ユージュアル・サスペクツ | | ★★★★★★★ |
レオン | 今作とにかく現在の大切さを感じさせてくれる。それは未来から切り離された独自の存在としての現在。悪く言えば、行き当たりばったりの計画性無い現在なのかもしれない。しかしながら、未来には現在を抑制する負の要素を持ち合わせている。今この瞬間にやるべき事をやる、たとえそれが悲しき未来に繋がろうとも。だからこそ、今作で表現されている切なさは他の追随を許さないのだろう。 | ★★★★★★★ |
シンドラーのリスト | 視点が偏っているという批判はスピルバーグも覚悟の上なのだろう。それ程までに今作はナチスを、いやドイツ人を諸悪の根源であるかのように描いている。まるでユダヤの怨念がスピルバーグに宿ったかのような徹底振りである。ただ、やはりこの史実は被害者側から描かれなければならないもので、仮にそれが幾ばくかの偏重を含むとしても仕方の無い事ではなかろうか。歴史を繰り返さないためにも今作は素直に見た方が良いのでは。 | ★★★★★★★ |
ロレンツォのオイル 命の詩 | 希望の回復を求める魂が疾走する作品。息ができぬほど切実で壮大な奮闘記を、強さと弱さが同居する結晶を燃やし、その蒸気を動力に描ききる。目では泣かずに「心が泣く」作品だ。精神砂漠と化した現代に生きる人々に、生命、家族、そして、愛の意味を問いかける。決して「奇跡」ではない、これは希望を捨てなかった両親の紛れも無い「軌跡」なのだ。 | ★★★★★★★ |
レザボア・ドッグス | 倉庫という限定された空間に、役者という素材でみせる演劇的なダイナミズムと時制を巧みに切っていく編集という映画ならではのダイナミズムの見事なまでのマリッジ。この構成の妙は、舞台の息づいた「荒さ」と、映画の細部にまで目の行き届いた「緻密さ」が融合したエンタテイメントとしての至極と言っても過言ではない思う。 | ★★★★★★★ |
グッドフェローズ | ショッキングで痛快で圧倒的な映画。取り分け人間関係構築の巧さとスコセイジらしい音楽の載せ方。序盤、R・リオッタの「作り笑い」と、J・ペシの「逆ギレ」を組み合わせる事でジャイアン、スネ夫関係の構築に見事成功。加えて終盤、デ・ニーロがジャイアンの席に座ると、今度は、R・リオッタがのび太に席に座るという流麗な人間関係の変遷。 | ★★★★★★★ |
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメ ・・ | 移民として味わう挫折感や孤独感は、「回顧」という歪んだフィルターを通して、皮肉なことに正義へと濾過され昇華される。断片的で曖昧な記憶の集積としてのこの物語は、真実とは甚だ乖離した、その意味に於いて、とても叙述とは言えないものであるとも指摘できる。或いは、それこそが映画の映画たる所以、捉えられた美しくも映画的な「曖昧」が、「記憶」であり且つ「映画」である。 | ★★★★★★★ |
パリ、テキサス | 精神砂漠と化した時代を生きる男の静かで虚ろな瞳に投影される「動きの止まった」社会と茫漠とした世界。ナイーブな内部を決して見せてくれないアンチ・ハリウッド的作劇は、殊更観客に考えさせ、そして、悔恨させる。何度も反芻して「感じ」たくなる映画。そしてそのたびに違ったものが見えてくる。 | ★★★★★★★ |
ファニーとアレクサンデル | | ★★★★★★★ |
アルカトラズからの脱出 | 小さい仕掛けの連続で波状効果を生みだしていく感じの湿り気のなさがシーゲルらしいリアリズム。漲る緊張感、ドライに押さえたが故に浮き上がってくる情感の豊かさには有無を言わさぬ説得力がある。記録性、時代性の外枠を固辞しながらも、目いっぱいに「けれんみ」を注入するシーゲルの映画人としての信念の主張と、そして、その先に見据える商業主義とのバランス。全てが絶妙なシュールレアリスム。 | ★★★★★★★ |
ミッドナイト・エクスプレス | 牽強付会さえ通じない不条理の果ての自暴自棄、この男の狂気だけは許し得る。緻密な計画が破綻し、運否天賦の積み重ねが脱出へ通じるというシニカルなリアリズム。ネバネバとした粘膜質なタッチのストーン節に、心臓の鼓動を鳴らすパーカー演出。リアルなのだが、ドロ臭いドキュメンタリー調ドラマとは違う生臭いファンタージーを感じさせるシュールレアリスム。 | ★★★★★★★ |
アニー・ホール | 恋愛初期の心象をとてもシンボリックに表現しつつも、ニューヨーカーのエネルギッシュな日常はリアリズムを保持しながら活写している。男と女の駆け引きにより生まれる不穏な空気感に立脚し、より映画的なエンタテインメント作品としての構成を希求したアレンの至極とも言える作品。 | ★★★★★★★ |
ゴッドファーザー PART II | 本作の白眉は、デ・ニーロによる暗殺シーンだろう。屋上における横への移動。キリスト教的な暗示性を感じさせるカットバック。銃声をかき消す花火の音。電球の演出。カットバックの先に見据えるのは、一作目同様、「神と悪魔の併置」なのだが、醸し出す「激しさ」「憎しみ」「哀しみ」は見事な映像詩の高みに達している。そして、達観さえ感じさせる深遠としたアンチクライマックス。あのラストはなんとも哀切だ。 | ★★★★★★★ |
ジャッカルの日 | カメラのレンズを通して、フィルムに焼き付けられた手を加えられてないシャシンのみで勝負するジンネマンの潔さ。静けささえ感じ取ることができるセリフ無きカットの恐ろしいまでの饒舌さ。ジネンマンは、殺し屋のかくも冷徹な所業を通じて、精神砂漠と化した現代に生きる人々に横の揺さぶりをかける。それにしても、ラストの「突き放し」。あの「突き放し」は、心臓につき刺さるほど痛い。 | ★★★★★★★ |
惑星ソラリス | ソラリスの海は人間に訴えかける、その存在意義を・・・クリスが生み出す自殺した妻・ハリー、それは記憶の反映。そう、彼が心奥底にしまい込んだ、パンドラの箱。ソラリスはそれを開け放つ、そして彼はソラリスに飲み込まれ現実を直視せず、幻想の世界に身を任せる。だが、彼を非難できない、ソラリスは私たちの希望でもあるのだから。 | ★★★★★★★ |
大脱走 | 「男臭さ」とハリウッドポップを兼備した役者を居並べた、スタージェスのキャスティングセンスの勝利。頼り甲斐ありそうな無さそうなファジーなリーダー・アッテンボローに、ブロンソン、ガーナーの男臭コンビ、自転車スイスイのコバーンの爽快感も良い。曲者プレザンスが、ここでは、愚直な男を演じている。 | ★★★★★★★ |
十二人の怒れる男 | 12人全てが無駄なく生かされている展開力にまず驚かされる。そしてその12人全ての個性がスタート直後に確立するところの凄さ。役者の選択や、脚本が優れている証拠である。そして、個々の立場の微妙な変化。この個々の立場、単に証拠云々だけでなく、陪審員間の軋轢や、仲間意識等でも微妙に変化する所のシュールレアリスム。法のエアポケットをシニカルに突いてみせたルメットの人間絵巻。 | ★★★★★★★ |
フォーン・ブース | この焦燥感。展開を薄めず濃密のまま短い尺で終えた選択に乾杯。吉野家の牛丼の汁だくのような映画だ。手早く濃厚で旨い。また、キーファーの声にも乾杯。キーファの最大の売りはやはり声質だろう。また、このセルフォン全盛期に公衆電話である必然性。ニューヨークでの公衆電話がノスタルジックになりかけた2003年でなければこのストーリーは機能しない。傑作だと思う。 | ★★★★★★ |
パニック・ルーム | 実に映画的な魅力の詰まった作品。キッチリと細部まで目の行き届いたFacadの魅力。適度のコミカルな三人組の圧倒的なまでの面白さ。母子の絆と母性の尊さ。聞かせない演出に縦横無尽の視点移動。Snagを放り込むタイミングなんかも絶妙だ。こういう映画的に饒舌な作品はそうお目にかかれない。傑作。 | ★★★★★★ |
ゴスフォード・パーク | 一人が突出した魅力がある訳ではないが、彼等が集団で集まることによって映画が弾ける。それは、人物のキャラクター性というだけでなく、映画の中の様々なものを鈍化させ、とどまることを知らなくなる程膨れ上る。全てのキャストにワイアレスマイクを装着させ会話を一滴も残さず掬い取ったアルトマン演出の希求は、その会話が交錯し象られる喧騒のリアリズムとなって結実している。 | ★★★★★★ |
バーバー | 白黒はっきりしない男を、モノクロで映し出し、グレーの煙に染めるシュールレアリスム。色数を競う現代映像事情をあざ笑うかのような饒舌なモノクロだ。人間存在の寂しさと悲しみに満ちた40年代のフィルム・ノワールの空気を彷彿させる。しかし、そういったペシミズムを笑いを媒介に説くのがコーエンらしいオプティミズム。男が未確認飛行物体を前に平然と頷いた瞬間、この映画は、時代を超えた価値を帯びる。 | ★★★★★★ |
アザーズ | 光と影の絶妙のバランス感覚、深みのある陰影に富んだ映像。一瞬の感情の揺らぎを抉り取って拡大してみせるような「静」の密度の濃さを感じさせる空気感。社会的背景について、過度の説明を排除するアメナーバルの禁欲的態度は、ハリウッドにおいては圧倒的に異質だ。アッと驚くケレンミに満ちたラストから、流麗な哀調を込めたアンチクライマックスへ繋ぐ恐ろしい程に冷静なシュールレアリスムが鈍った心に突き刺さる。 | ★★★★★★ |
ブラックホーク・ダウン | 金属音、金属音。このリズミカルな金属音は麻薬的な魅力を持っている。音で戦争を象った映画。誰が誰だか分からなくなる戦争を究極のリアリズムを映画で呈示する事が許される時代に突入した事の驚きと、ブラッカイマーがその物語無きドラマにゴーサインを出した事実。映画が今変わろうとしている。そういった意味では、本作はまさしく「プライベートライアン」のアンチテーゼであり、戦争映画の分岐点。 | ★★★★★★ |
バニラ・スカイ | これは悪くない作品だと思う。何と云っても、中盤以降の「突き放し」が恐ろしい程に冷徹だ。時間軸も空間も悠々と飛び越え、リリカルな糸を紡ぎあげるシュールレアリスム。物憂さ、曖昧さ、不安定さが漂うノワール調の不穏感とハリウッド・ポップなキャストの幸福なる融合。思考停止を余儀なくされる不連続性、非論理的構成の、有無を言わさぬ力強さ、イマジネイティヴな飛躍力は他に類を見ない。 | ★★★★★★ |
A.I. | なんと哀切で痛切な映画。そして、圧倒的にスピルバーグの映画。常に冷徹で、キャラクターに対する感情移入など許さぬキューブリックとは対照的に、ロボットにさえ感情移入させる感傷性は、スピルバーグがキューブリックに勝っている点だ。たとえ世間がキューブリックを求めていても、この映画はキューブリックを求めていないだろう。 | ★★★★★★ |
15ミニッツ | 面白い手触りの映画。何処にでもありそうで、その実、凝視すると中々どうしてユニークだ。消防局捜査員という存在の面白さ。本来、警察とは違う角度で事件に関わるはずが、徐々にオーパーラップするシニシズム。加えて、デ・ニーロの扱い方における強烈なIconoclasm. また、ケルシー・グラマーの使い方も素晴らしい。彼の特性をしっかり生かし切りながら、プロットに溶け込ましている。 | ★★★★★★ |
隣のヒットマン | 傑作。このB・ウィリスとM・ペリーのコンビならばずっと見ていたい。それにしても、M・ペリーは間の使い方、セリフの被せ方が圧倒的に巧い。相手の問いが終わる前に自らの答えを被せるその瞬間こそが本作の白眉。あのような饒舌なタイミングを持っているM・ペリーは、やはりコメディ役者として卓越した存在だと思う。 | ★★★★★★ |
ミート・ザ・ペアレンツ | 傑作。稀代の傑作。デ・ニーロ、スティラーの探り合い会話に大爆笑。コテコテとシュールの幸福なる融合。あの「間」と掛け合いのリズム。全く以って天衣無縫。コメディとして、最高水準の会話だ。テリー・ポロ、ブライス・ダナーも頗る良い。そして、オーウェン・ウィルソンの使い方。つぼを心得ている。哀愁路線で収束する後半は、若干息切れの感も否めないが、しかしながら、この喜劇は圧倒的に面白い。 | ★★★★★★ |
天使のくれた時間 | こういう分かり易い図式のストーリーを、ストレートに、役者味だけで呈示すると、実に表現力に富んだ作品になる。それは、ケイジが上手いだとか、レオーニが上手いだとかという次元を超えた映画としての「空気」の良さ。二人が庶民派の夫婦として交わす会話と、現実においての交わすよそよそしい会話の差異。この冷徹な差異だけでも、傑作と呼ぶに相応しい。 | ★★★★★★ |
マルコヴィッチの穴 | マルコビッチに入るという行為自体が本来最もコメディな所なのだが、本作はその行為自体のコメディ性をダイレクトに利用したりはせず、その非現実性を肯定した上での日常をリアリズムの統制下で描きシュールな笑いを喚起するのだ。気休め的なハッピーエンドではなく、むしろ悲惨とも言える終局。しかも、それをセンチメンタルに描くのではなく、淡々と流れるような、重意的なエンディングへ繋いだシュールレアリスム。 | ★★★★★★ |
インサイダー | タバコの害云々のストーリーの今作ではあるが、M・マンがメガホンを取る以上テーマは男の生き様だろう。正義を貫けば家庭が崩壊するという図式により、男の苦悩をあぶり出し、一方で男同士の約束の重さも示す。個人対企業という負け試合の図式からは、虐げられる男の哀愁とそれでも諦めない男の信念見せる。まさに、男、男、男の演出。娯楽性を保ちながらも実話の重みは失わないというノンフィクションの料理の仕方も上手い。 | ★★★★★★ |
アメリカン・ビューティー | 家そのものの崩壊と家族という具象をアナーキーに描いたこれは傑作だと思う。それにしてもこの冷徹な視線。寒いギャグを飛ばしたヤツでも見るかように、責めるような冷徹な視線で眺めている。ベニングとスペイシーの口喧嘩の面白さ。この夫婦喧嘩は圧倒的に面白い。勢いついでの一言が奇跡と呼ぶにふさわしい程にシュールレアリスムだ。エネルギッシュでありながら、ヒヤリとした金属的な孤独感も兼備する濃密な人間絵巻。 | ★★★★★★ |
ファイトクラブ | 序盤からフィンチャー独特の、ヒヤリとした金属的なデカダンスが拡大し、肉体を錆び付かせていくような孤独感が蔓延する。恐ろしいほどのダークポップな空間造型だ。スタイリッシュな映像感覚と物語を立体化する重層的なストーリーテリングが切れ味鋭い。 | ★★★★★★ |
マグノリア | これは実に流麗な映画だ。とりわけ、音楽のリズムに身を任せながらパラレルに繋いだクロスカッティングの流れ方の素晴らしさ。この「流れ」だけで傑作と呼ぶに相応しい。それは、たとえ空からの落下物がリアリズムの欠片も無いとしてもだ。 | ★★★★★★ |
シンプル・プラン | 雪原のロングなんかは「ファーゴ」想起させるのだけれど、内面を見せてくれない「ファーゴ」とは違い、本作は、夫婦間、兄弟間の会話を通して内面の吐露をさせるので極めて分かり易い形で心理の変転が見て取れる。パクストンが「らしい」普通人ぶりを披露する一方で、ビリー・ボブが暴走一歩手前の変装で怪演。それでも俺は拾いたいのだという欲望漲る小市民がこの世に存在し続ける以上、本作に普遍性はあると思う。 | ★★★★★★ |
フォロウィング | 高い金を出してグリシャムの権利を買う事が馬鹿馬鹿しく思えてくる位に意外性に富んだ脚本と、低予算の負を見事レトロ感に変転させたみせたモノクロの選択。「無い」という現実を直視する一方で、それでも冷蔵庫の残り物で一品拵えてやるという作り手の気概が観てる側にもひしひしと伝わってくる。創意工夫の勝利だと思う。だからこそ、全てを手に入れたノーランの「インソムニア」における落日が悲しいのだ。 | ★★★★★★ |
6デイズ/7ナイツ | ロケ・ショットによる南国の開放感も良いが、本作の魅力は主演二人の会話の面白さ。マシンガントークのように早口なアン・ヘッシュとそれを意に介さずスローペースを保つハリソン。緩急に満ちた会話のリズムの心地よさよ。ストーリー自体は普通だが、それを色付けする「会話」のリズムと内容が素晴らしいのだ。吹き替えはもとより字幕も本作の良さは伝えられていない、原語でそのリズムを感じて欲しい。 | ★★★★★★ |
セレブリティ | ジュディ・デイヴィスのNervosityな感じが女性版アレンのようで圧倒的に面白い。ケネス・ブラナーは、完全にアレンの物まねをやっているが、なかなかどうして悪くないと思う。ディカプリオやウィノナなど豪華な食材をさらりと前菜で出すところがアレンらしいModeration、或いは、ハリウッド映画に対するSarcasmか。 | ★★★★★★ |
バッファロー'66 | ダメ男にとっての紛う事なき「愛」の姿を、まるで標本のように密閉保存した作品。今もっともナイーブなギャロ印の「愛」を、絶妙な距離感を保ちながらリッチが手懐ける面白さ。誰にも抱きしめてもらえない「剃刀」のような男を描き、演じさせたらギャロの右に出る者はいないだろう。見終わった直後、時を経てから、何度も反芻して感じたくなる映画。そして、その度毎に違った「愛」が見えてくる。 | ★★★★★★ |
トゥルーマン・ショー | こういう突飛なアイデアでも、ここまで社会性を香らせたら立派なヒューマンドラマだ。例えば、E・ハリスの言い分など実に説得力がある。L・リニーの突き放しっぷりだって悪くない。そして、何よりキャリーのコメディの範疇を逸脱しない範囲での哀愁。J・キャリーの映画は毎回彼のワンマン作品になってしまうのだけれど、本作においては、全く逆のアプローチでE・ハリスが存在感を放っているので役者間のバランスが良い。 | ★★★★★★ |
メリーに首ったけ | 傑作。ベン・スティラーに負っている所が大きいのだが、しかし、この不謹慎を意に介さない作劇の潔さ。ファレリー兄弟の「趣味の良い悪趣味」は常に毒のあるユーモアを伴っている点で、単に奇をてらっただけの低俗な映画とは圧倒的に一線を画する。スティラーの知らず知らずのうちに悪い方向へ向かうというタイプの天然系ボケの表現は、本作の時点で名人の域に達している。 | ★★★★★★ |
プライベート・ライアン | 多々秀逸な点を有する今作において最も評価したい点は随所に盛り込まれるユーモアを感じさせる描写。家庭の事情を考慮して二等兵を救うという、戦争の本質さえも見失うような庶民的大義名分や、出くわした敵兵同士がとっさにヘルメットを投げ合う描写。これら一見ユーモアにも見える描写がなにより極限状態を感じさせてくれる。この行動を優雅に見ることができる事こそが我々観客の特権であり戦争映画の存在意義ではなかろうか。 | ★★★★★★ |
ロスト・ハイウェイ | 解こうとすれば逃げていく「もどかしさ」が、解明を以って進化を遂げてきた人間の本能を擽りに擽る。この強烈な難問を前に、攻略本を欲してしまうのは、ゲーム世代の性なのか。ただ、「解なし」の問題を延々解かされていたような苛立ちと表裏一体の甘美な探究心が本作の至極なのだ。 | ★★★★★★ |
コン・エアー | テンションの高い悪のアラカルト作品。マルコビッチの余裕綽々感、ビング・レームズの二番手ぶり、ダニー・トレホのペキンパー風の男臭悪、或いは、ブシェーミの永世中立国的「悪」。お好みの悪を観れる楽しさに満ち溢れている。善は二色弁当。行動の自由はあれど頼りないキューザックに、力はあれど行動の自由無しのケイジ。 | ★★★★★★ |