題名 | レビュー | 星の数 |
2001年宇宙の旅 | 外的な脅威ではなくあくまで人間の内的なものから誘発される抽象的存在の恐怖を神秘的に描いている点でその他のSF映画とは大きな隔たりを持っている。キューブリックの映画はストーリーを読むものではなく、画面に湛えられた空気感を感じる映画であり、その点はタルコフスキーの画面と同様神秘的な時間に浸ることのできる映画建築である。 | ★★★★★★ |
オール・ザ・キングスメン | ノワール色の強い社会派ドラマでキレのあるドライなタッチが冴えるロッセンの演出が興味深い傑作である。とりわけマーセデス・マッケンブリッジのタフな女のイメージは映画史的に大きな財産となった。1949年アカデミー助演女優賞受賞もむべなるかな凄味を感じさせる存在感である。省略の妙による編集ワークも作家の作劇術が息づいていて映画を躍動させるリズムがひじょうに個性的だ。 | ★★★★★★ |
わが谷は緑なりき | まるでハウス食品の世界名作劇場を見ているかのような懐かしさに包まれた至福の時間であった。偉大なるジョン・フォードはその多くの西部劇でも描いてきたように弛まざる父性というものを映画に謳わせて感慨深く、またモニュメント・バレーのような背景を渓谷という広大なイメージの広がる舞台にうつしかえたドラマにはやはりフォード映画に脈々と受け継がれる血筋が通っていて熱くなる。 | ★★★★★★ |
或る夜の出来事 | ロマンチック・コメディの生命線といえる瑞々しい詩情が全編に渡って湛えられていてとてもさわやかな印象が心地よい傑作である。低予算、大半がロケ撮影という条件で撮影されながら映画の活劇性をしっかりと内包した高度なバランス。とても洗練された見事な演出である。 | ★★★★★★ |
フレンチ・コネクション | オールロケによる特にニューヨークのゴミゴミした景観が映画的な舞台として美しく、刑事ものという自由度の高い設定を配しながら、いかんせん実際にあった話に基づくというリアリティを偏重したあまり、人物造形、主人公の魅力を抽出するには至らなかった惜しい作品である。 | ★★★★★ |
ブリジットジョーンズの日記 | コメディ要素の強いロマンス映画としてはよくできた作品である。レニー・ゼルヴィガーのデ・ニーロ・アプローチ的な役作りを生んだという点でも映画の強度をもちえている。ヒュー・グラントのコメディアンぶりもエキスパートの域に達した感があり、役者陣の面白みは十分に堪能できる。ただし、女性の自己中心的な人生語りのドラマスタイルはあまりに紋切り型となる。設定・人物・事件など語られる内容については食傷もの。 | ★★★★ |
ゴッドファーザー | コッポラが30代そこそこで撮ってしまったという若さゆえの筆致の拙さ人物造形の幼さで、無惨にも魅力的な素材の旨みが死んでしまったという実に悔しい一品である。描かれようとしている世界観の骨の太さというものが感じられず、社会あるいは個人が孕んでいる暗黒面への畏怖というものが薄っぺらなので、これだけの大作な風体を持ちながら映画的にはあまりに小柄といえる。 | ★★★★ |
ダーティハリー | B級低予算早撮りという環境下で腕を上げたドン・シーゲルによるプログラム・ピクチャー的風合いとして秀作。しかし59歳という老境にさしかかる齢の腕か映画に魅力的な逸脱性が希薄で刺激が足りないと感じてしまう。これはやはり41歳イーストウッドでは不良性を体現しがたかったというコンビネーションの憂き目であろう。 | ★★★★ |
ベン・ハー | この3時間半にわたる大作を見るにつけ思ったことは、スペクタクル映画の製作システム。仮にこの題材を昨今流行の「三部作もの」として切り売りしてはどうだろう。テーマとなるのは、征服者と被征服者の間にある民族的な隔たりと、様々な感情をもつ生身の人間の懊悩、そして神=神秘のただ中にある世界の宿命論的なドラマを現在の持てる映画技術を結集して創造すること。 | ★★★★ |
西部戦線異状なし | 戦争映画の厄介なところは人の死が映画一面に転がっていながらその死についてはあらかじめ予測されたものであり、主人公も然り登場人物に訪れる死は当然のものとして受け入れられるという性質にある。そこにヒューマニズムに立った受難者の悲劇を描く視点では人間の生死に対してのリアルな感慨や人間の業の深淵について思いを馳せることは難しい。 | ★★★★ |
未知との遭遇 | トリュフォーのラコーム教授などのキャスティングの不可解さや、宇宙船との交信における音楽的高まりの芸術性、明らかに破綻を含んでいながら随所にストーリーとは別枠での映画的強度が散見するカルト的な作品である。それこそ画面に充溢していたサスペンスフルな狂気をテーマとして、未知なる物をあくまで抽象的に描くことに徹底していれば、もっと含蓄のある時代を超えた傑作カルト映画となったであろう。 | ★★★ |