題名 | レビュー | 星の数 |
ユリイカ | 上映時間3時間37分。終始、息を凝らすような緊張感が漂っていた。バスジャックに遭遇した運転手の沢井と乗客の兄妹。事件後、心に深い傷を負う姿が痛ましい。そんな彼らを救おうとする者はいない。希薄な人間関係の中で、唯一固定された長回しの映像が彼らをひっそりと見守るかのような印象を受けた。出演者がいい。九州訛りの役所広司が沢井の人柄を出している。聴きなれた方言が慎み深く響いてくるのは新鮮だった。 | ★★★★★★★ |
オー・ブラザー! | | ★★★★★★★ |
ショコラ | 北風の吹く寒い夜は、この作品を。観終わる頃には温かくふんわりと包まれたような気分です。昔々、神々の食べ物だったカカオは今では美しいチョコになり、それを口にした人々は解放され、寛容になっていくのがおとぎ話のように語られる。それを知っているショコラ店の女主人も、実は人々から救われるのがいいですね。ちなみに近頃は、スーパーのチョコにもカカオ含有量の多いのが出回っているようです。 | ★★★★★★★ |
ストレイト・ストーリー | 体の不自由な老人が、疎遠になっていた兄に会う決心をし、トラクターで長い旅に出る。人は、本意ではなくとも大切な人と傷つけ合い、関係がこじれることはよくある。人生の残された時間を実感した時、それらについて人は、どのような思いを巡らすのだろうか。この物語は実話だと聞いた。道中出会う人々との触れ合いで、老人の人となりが語られる。老人の示唆に富む立ち振る舞いに、深い感銘を受けた。 | ★★★★★★★ |
シャンドライの恋 | 少ないセリフ。印象的な映像と音楽。ほとんど感覚でみた映画です。まだ理解力の乏しい、映画を見始めたばかりの中学時代の頃のように。なににもまして印象的だったのは、ラストです。原題は「悩ます」の意味があるようで、だからかなあ?ラストに悩まされました。(巻戻しやっても、同じシーンで終わるんですよねぇ。) 結局、絶妙なピリオドだと納得して、電源をOFFにしました。 | ★★★★★★★ |
デッドマン | 全編に、リアルでも幻想でもない世界が漂っている。時間は生死を彷徨いながら、過去へ遡っているという印象を受ける。魂の深層に向かっているのだろうか?ジム・ジャームッシュのモノクロは温かく円やかで、深みがある。それが心地良くこの作品を詩にしている。と言っても難解ではなく、思いっきり良く遊んでいて、それが可笑しくもありました。 | ★★★★★★★ |
プリシラ | | ★★★★★★★ |
秘密の花園 | 大人になって少年少女世界名作の原作を読む人は、滅多にいないでしょう。本作も同じでしょうか?DISさんのレビューにもありますが、それでは惜しい気がします。総指揮はF・コッポラ。美術は見応えがあり、花園からはむせ返るほどの花の香りと、草いきれが伝わってきます。主人公の少女は、純粋さと邪悪さを繊細に演じて魅力的。充分感情移入できると思います。 | ★★★★★★★ |
バートン・フィンク | コーエン兄弟の作品で特に印象深いのが、本作です。ラストまでわけのわからないままに、ぐいぐいと引き込まれました。それは理屈を飛び越え、無意識の世界にダイレクトに響いてくる気がするからかもしれません。この感覚に似ていると思うのが、睡眠中にみる「夢」です。夢は、無意識なわけのわからない世界でありながら、どこかで了解している世界でもある気がします。 | ★★★★★★★ |
ナイト・オン・ザ・プラネット | バックに流れる音楽が、五つの都市で起こるタクシー・ドライバーと客との出来事を一本の物語にまとめていく。ブラックなユーモアがあるが、みている者をも包み込む温かさが伝わってくる。地球で、今共に生きている事を共感出来る、そんな雰囲気があるのは、きっと監督は優しい方なのだろう、と思いました。原題は、ナイト・オン・ザ・アース。 | ★★★★★★★ |
櫻の園 | 女子校の演劇部員たちを、さらりとスケッチするように描いているのが、この作品の最大の魅力だと思います。「櫻の園」が開演されるまでの二時間を、カメラは、少女達から少し距離を置いて温かな眼差しを注いでいる。その繊細なタッチがみずみずしい作品となって、いつまでも新鮮な印象を受けるのだと思います。タイトルは古めかしいのですが。 | ★★★★★★★ |
ブラッド・シンプル | エンディングが流れ深く息を吐く。推理小説を一気に読み終えた気分がするのは、語り口が巧いのだと思う。登場人物はほとんど四人で、誰が誰を襲うのか見当が付かない。デビュー作を再編集してるとは言え、当時は低予算のため画面は暗く、ストーリーに遊びはない。しかし生臭い血と魚、噴き出す汗、ざらざらとした土の感触が、画面からほとばしってくる。 | ★★★★★★★ |
ミツバチのささやき | ひとつひとつのカットがゆっくりと廻ってゆく。登校する子供達の風景だったり、野原に立つ一軒家だったり。ドアの音・靴音・・。音には表情があり、耳を澄ませそれを味わう。エリセ監督は、みる者がイマジネーションを膨らませるのを与えてくれている気がする。物語の説明はほとんどなく、幼い少女の現実と幻想の区別がつかない世界を詩的に表現している。映画をみると感想を語りたくなりますが、この作品は余韻を楽しみたい。 | ★★★★★★★ |
天国と地獄 | | ★★★★★★★ |
アラビアのロレンス | スケールの大きな美しい旋律に乗り、砂漠が映し出される。初めてみる映像での砂漠は人を寄せ付けない神秘的な世界で、その美しさに息を呑みました。'63年、中学2年の時でした。その砂漠にアラブ服のロレンスが美しく映え、困難に立ち向かっていく彼は私のヒーローとなりました。その頃母親が入院をし、寂しさと不安な気持ちをいっとき忘れさせてくれた思い出深い作品でもあります。 | ★★★★★★★ |
アパートの鍵貸します | コラムニストの中野翠さんはビリー・ワイルダーのコメディを、「落語的魅力」と評している。さすがにうまい! 本作は特にその魅力がたっぷりだ。粋なセリフと小道具を生かして、クスクスと笑いを誘う。ラストは、感動的シーンを「笑い」で外しておいて、ほのぼのとした余韻を残して幕を閉じる。ワイルダーらしい粋で洒落た味わいがなんとも愉しい。 | ★★★★★★★ |
雨月物語 | 数枚のスチール写真と、怪異物語の映画化(53年)から、神秘的でしっとりとした作品だと思っていました。しかし意外にも、躍動するほどのリズムと、瑞々しい感性に溢れていました。登場する人物は、善悪を超えて描写されており、特に主人公の男の持つ欲望を、純粋なものに感じるほどです。又それは、人間の哀しさででもある訳ですが。映画史上に残る名場面に酔いしれたのは、言うまでもありません。 | ★★★★★★★ |
ガタカ | 美しいセット・衣装・色彩・音楽で、近未来がクール(カッコイイ)で清潔感のある世界に演出されている。その中にイーサン・ホーク、ジュード・ロウ、ユマ・サーマンが、はめ絵のように収まり動いている。あまり他の映画ではみた事がない、そんな魅力がある。青春映画は生き方を対比させるのはよくあるが、ラストが…辛いです。 | ★★★★★★ |
世界中がアイ・ラヴ・ユー | ウッディ・アレンのミュージカルはやっぱり、いっぷう変わっている。出演者たちの歌やダンスはお世辞にも上手いとは言えない。それでもウキウキと鼻歌が出る気分、思いを抱く静かな気持ちがよく出ている。バックで歌い、ダンスをする役者たちは身のこなしが優雅でなんと言うか…、風格があってクラシカルな香りがする。たわいない話がごちゃごちゃと入り交じりながらも、相変わらず楽しい映画でした。 | ★★★★★★ |
リバー・ランズ・スルー・イット | この物語にぴったりのタイトルだと思う。モンタナの森の中を流れる、透明な川のせせらぎ。その川で、フライ・フィッシングをする親子が、とにかく美しい。風景が、しみじみと味わい深く撮られていて、その中に家族の物語が溶け込んでいる。生々流転する川。人にも、抗い難い運命があることが伝わってくる。家族は、その者を見放さず、ひたすら愛し続ける。 | ★★★★★★ |
ハリーとトント | 愛猫トントと、気楽な暮らしをしていた老人ハリーは、アパートの立ち退きに遭い、旅に出る。道中出会う人々との触れ合いは、和やかで、さらりと綴られていて後味が良い。75年度、キネ旬一位の秀作です。ハリーの語る言葉は簡単明瞭でいて、味わい深い。その上、ユーモアーがあり機転が利いて、飛ばすジョークに吹きだしました。こんな老人を目指すのも悪くない、と思いました。 | ★★★★★★ |
奇跡の人 | アン・バンクロフトが亡くなった(05.6.6)。享年73才は意外。「卒業」のロビンソン夫人を35才で演じていたとは。その5年前、本作でサリバン先生役だったとはさらに意外です。野生の動物のような少女ヘレン・ケラーに正面から激しく向かっていく。ヘレンも激しく抵抗する。格闘技のようで息を凝らして見入ったのが中学時代。当然パティ・デュークに目を奪われたが、今アン・バンクロフトの、まっとうで純粋な愛が伝わってきます。 | ★★★★★★ |
黒いオルフェ | 初めてみたのが40年程前。その時の印象が強烈に残っています。だから今みるには少しばかり覚悟が必要です。何故なら、皮膚からも入ってくる程の感受性はもうないのを思い知らされるから。でも‥、みました。「URIBO555さん」が評価されている通りだなあと思います。それと登場するふたりの男の子の重要な役割が腑に落ちました。この歳(?)になってからこその理解だと、慰めながらではありますが…。 | ★★★★★★ |
わが谷は緑なりき | 古い映画の家族の物語。両親は、大地に根を下ろした巨木の様な生命力がある。子供達はその両親に見守られ、働く喜びがある。その一家が時代に翻弄されていく。しかし、この時代に限らず人は、翻弄され続けているのかもしれない。今社会は複雑になり、映画も繊細で傷付きやすい人間の絆を、丁寧に描いた作品が多い様に思う。それらは興味深いけれど、時たま古い映画をみると、今の社会と人は病んでいるなあと思います。 | ★★★★★★ |
トゥルー・ロマンス | ギャングから追われる若いカップルの話は破天荒ですが、恋に夢中の一途さは健気です。女の子は大変な事態になっても、好きな男のカッコイイ姿に目は星マーク。男の子の気持ちは、kazuさんの評でなるほど解りました。二人にとっては都合のいいラストですが、温かい目で見てあげたくなりました。 | ★★★★★ |
ミザリー | キングを読む知人は、「小説での怖さはこんなものではない」と言います。それでも娯楽映画としては、充分面白いと思いました。ハラハラ・ドキドキする臨場感と、キャシー・ベイツの怪演は迫力がありました。しかし、ファン心理から逸脱していく狂気の中に人間の哀れさが描かれていれば、「コレクター」(ウィリアム・ワイラー監督)の「男性の狂気」に対抗する、「女性の狂気」になったのではと惜しい気がします。 | ★★★★★ |
ローズマリーの赤ちゃん | 少し舌っ足らずな甘ったるいスキャットが、オープニング・タイトルに流れる。不気味な物語を暗示させるようで、奇妙に耳に残る。この映画は(68年)オカルト・ブームのきっかけになったと言うことですが、今みても怖いです。まだ幼さの残るローズマリーが妊娠し、じわじわと追い詰められていく。妊娠の経験のある人には、実感出来る心理が描かれていると思います。 | ★★★★★ |
マディソン郡の橋 | この物語は、純愛?不倫?フランチェスカは、キンケイドと出会った事で自分自身を取り戻した話だと、私は受け取りました。彼女は、自分を冷静に見つめ、家族を思いやり、真っ当な選択をしたと思います。死後子供に宛てた手紙は、教訓すら与えている。いい物語だと思うのですが、「四日間の永遠の愛」のコピーは的外れな気がします。例えば、ルイ・マルの「恋人たち」から受けた圧倒されるほどの愛は、響いてこないのです。 | ★★★★ |
父の祈りを | | ★★★★ |
ベルリン・天使の詩 | この作品が封切られた時(88年)、「不思議な魅力がある映画だ」、と天声人語に取り上げられるなど話題になりました。私も二度、映画館へ足を運びました。作品からはヴィム・ヴェンダース監督のメッセージが物静かに伝わり、今生きていることに優しくなれる心地良さがありました。しかし…、色あせてしまいました。これほど印象が大きく変わってしまった映画は、珍しいです。 | ★★★★ |
ライフ・イズ・ビューティフル | 父は全身全霊をかたむけ、厳しい現実を楽しいおとぎ話に置き換え子を救った。父の深い愛があったからこそ、その子はおとぎ話を信じたのでしょう。同じイタリア映画に「自転車泥棒」「鉄道員」があります。それらには生活が貧しく頼りない父と、その父を思いやって、そっと寄り添う子がいます。幼い子が父を思いやる力を持っていることに、胸を打たれます。人間らしい親子の絆は、両方から注がれる愛があるのだと思いました。 | ★★★ |
八日目 | 「働きづめのサラリーマンと、ダウン症の青年との心の交流…」と、コピーが付いている。これで大よその見当が付く。しかもダウン症の青年は自身がそうでありながら、プロの役者です。だからと言う訳でもないのでしょうが、とても巧い。屈託のない笑顔とファンタジックな映像が溶け合って、ゆるゆるとみていたのですが、ラストでは思いっきり突き放されてしまいました。「青年はこれで幸せなのだよ」、と言われてもねぇ…。 | ★★★ |
パリ、テキサス | | ★★★ |